『人はパンのみにて生くるにあらず』¹ ドイツ人は戯れにこのことわざに続けて「ソーセージやハムもなければならぬ」²と言う。栄養にうるさい人なら「野菜も必要である」と付け加えたいところであろう。 これはキリストの山上の説教の中にある言葉で、「人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」(マタイによる福音書第4章4節)がその全文である。もっともこれは旧約聖書申命記第8章3節「人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きるのである」をキリストが引用したものである。いずれにしても、「神の言葉」を信じて生きることは信仰的な事柄であるが、ことわざの場合、この「言葉」は精神的なものとして一般化され、人間は生きるためには肉体の糧だけでなく、精神的な糧も必要である、という意味になる。 コロンビア大学のクラッチ教授は、同大学創立二百年祭の講演で、「21世紀はサイコソマティック(物心一如的あるいは精神肉体相関的)な人間観を打ち立てるべきである」と論じたが、物質中心的な現代にあって、精神面の重要性を説くこのことわざは、まさに重要な金言というべきであろう。 |