『春は聖ヴァレンタインの隣人である』¹

 聖ヴァレンタインの祭日二月十四日ともなれば春は間近。イギリス十四世紀のことわざに「聖ヴァレンタインの祭日にはすべての鳥は二羽ずつ番(つが)う」²とあるように、小鳥も相手を選び始める。

 昔は、この日若者たちが集まって恋人を決めるくじを引き、相手が決まると贈り物特に手袋を交換するという風習があったが、現在では愛の詩を記したカードを贈り物に添えてただ一人の意中の人に贈り、愛を秘かに伝える。

 もともと古代ローマにルペルカリアという豊穣祭儀十五日があり、若者たちが意中の女性に求愛する風習があったが、教会がこれを廃止したとき、最も近い14日に殉教した三世紀の聖者ヴァレンチノの祭日を代替にした。彼は、貧民、病人をあわれみ、子供を愛し、小鳥にも慕い寄られたという愛の守護聖人である。

 ローマの豊穣祭儀の痕跡をとどめているため、「聖ヴァレンタイン祭の日に良い鵞鳥がちょうは卵を生む。もし良い鵞鳥なら、飼い主婆さんに報いるため、ヴァレンタイン祭の前に二個も卵を生むだろう」³という長いことわざもある。

1. To Saint Valentine the spring is a neighbour.
2. On Saint Valentine's Day all the birds in couples do join.
3. On Valentine's Day will a good goose lay; if she be a good goose, her dame well to pay, she will lay two eggs before Valentine's Day.

(志子田光雄)