『目には目を、歯に歯を』1 『復讐は楽し』2というイギリス16世紀のことわざがある。人間の口から出た最も極悪非道な言葉であると注釈がついている。しかし、『復讐は神の一口(ご馳走)』3ということわざもある通り、復讐は人に任せず、神自ら行うほど美味なものであるらしい。 復讐が美味なものであるかどうかは別として、加害者に対する激しい憤りを解消したり、自己の威厳を保つために行うのが復讐であるといえるであろう。 人間社会の発達段階においては、復讐は個人対個人の報復から氏族などの団体による復讐を経て、やがて公的権威が確立するとこのような形での復讐は次第に認められなくなり、代わって公的機関が復讐するようになる。 標記の有名な言葉は、すでに約4千年前のハムラビ法典にあり、さらに旧約聖書、コーランにも見出される。相手から与えられた危害に対しては、同質同量の行為でもって報復すべきであるという古代の刑罰タリオ(lex talionis)すなわち同害刑法、対等報復律である。 一般にこの言葉は旧約聖書にあるので(出エジプト記21章24節、レビ記24章20節、申命記19章21節)、聖書の教えと誤解されることが多いが、キリストはこれを否定し、「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害するもののために祈りなさい。」(マタイによる福音書5章43―4節)と述べている。使徒パウロはイエスの言葉を受けて、「自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい。『復讐はわたしのすること、わたしが報復する』と主は言われる」(ローマの信徒への手紙12章19節)と言っている。 (志子田光雄) |