『石から血は取れぬ』1 昔はよく金銭に関して「欲張りじじい」とか「強欲ばばあ」、あるいは「冷酷な人」というような人物のことを耳にし、それなりのイメージを抱くことが出来たが、最近ではあまり聞かない言葉となった。まさか社会全体が寛大になったからではあるまいが、もしかしたらこのような存在が個人から組織のレベルに移ったからかもしれない。そして、組織が個人を抑圧して冷酷に事を運んで行く現代社会では、個人的なレベルの問題は隠蔽されてしまっているのかもしれない。 血の通わない石から血を搾り取ることはまったく不可能であるが、ここでは血は人情、石は冷酷な人を表す。冷酷で強欲な人は他の人に対しては同情せず、そのような人物に金銭的助力を求めることは無益であるというのがこのことわざの意味である。 『石から水を取り出すことは出来ない』2も同趣旨であるが、水は血より薄いためか、これは「金を払う気のない人や、払う金を持たない人に金を払わせようとしても無駄だ」というやや軽い意味で用いられる。 「血あるいは水を石から取り出す」ということは、「不可能なことをする」という意味であり、上記のことわざは、ラテン語の表現「いま君は石に水を要求している」3に由来すると思われる。 (志子田光雄) |